日々の暮らしの中で、「なんだか物が増えてしまったな」「もう少し家計にゆとりが持てたら」と感じることはありませんか。
そんな時、「持たない暮らし」や「節約」といった言葉が気になるかもしれません。
どちらも暮らしをシンプルにしてくれる良い考え方のように思えますが、似ているようで、実は大切にしている視点が少し異なります。
「物を減らしたいけれど、何から始めたらいいの?」「節約を頑張っているつもりなのに、なぜか続かない…」
もし、そんな風に感じているなら、まずは二つの考え方の違いを整理してみませんか。
それぞれの特徴を知ることで、自分にとって本当に心地よい暮らしを見つけるための、新しいヒントが見つかるかもしれません。
ここでは、そのための具体的な考え方や実践のステップを、丁寧にご紹介します。
「持たない暮らし」と「節約」のちがいを整理する

はじめに、「持たない暮らし」と「節約」の基本的な考え方の違いについて見ていきましょう。
目的や行動の視点がどこにあるのかを知ることで、自分がどちらを大切にしたいのかが明確になるかもしれません。
物の持ち方を中心に考える視点
「持たない暮らし」とは、主に「物との関わり方」や「物の持ち方」に焦点を当てた考え方です。
生活する上で、本当に自分に必要な物や、心から大切にしたいと思える物だけを選び取り、身の回りを整えていくことを目指します。
単に物の「量」を減らすことだけが目的ではなく、自分にとっての「質」や「快適さ」を重視する視点と言えるでしょう。
例えば、床に物が置いていないことで掃除がしやすくなれば、家事の手間が減り、時間にゆとりが生まれるかもしれません。
また、探し物をする時間が減ったり、お気に入りの物だけに囲まれて過ごすことで、心が穏やかになったり。
そうした、目に見える物だけでなく、精神的な豊かさや、ゆとりのある空間、シンプルな時間の使い方を大切にするのが特徴です。
この考え方では、「何を持つか」と同時に「何を持たないか」を自分で選択することを大切にします。自分の価値観を見つめ直すきっかけにもなるかもしれませんね。
支出を管理するための行動視点
一方、「節約」とは、主に「お金の使い方」や「支出の管理」に焦点を当てた考え方です。
日々の暮らしの中で、無駄な出費を減らし、賢くお金を使う習慣を身につけることを目指します。将来の計画のための貯蓄を増やしたり、毎月の家計のバランスを整えたりすることが、主な目的となることが多いでしょう。
例えば、購入する物の価格を比較検討したり、毎月の光熱費や通信費といった固定費(定期的に発生する費用)を見直したり。あるいは、日々の食費や日用品費などの変動費(状況によって変わる費用)を工夫したり。
そうした具体的な行動を通じて、経済的な安定や安心感を得ようとする視点と言えます。
この考え方では、支出の「必要性」や「妥当性」を判断することが中心となります。
家計を把握し、管理可能な状態にすることで、暮らしの土台をしっかりと支える役割を果たします。
目的と選択基準の差をわかりやすく整理する
二つの考え方の違いを、目的と選択基準で改めて整理してみましょう。
持たない暮らし
- 目的: 快適な空間、精神的なゆとり、シンプルな生活の実現、自分らしい価値観の発見
- 選択基準: 「自分にとって本当に必要か」「大切にしたいか」「心地よいか」「自分の暮らしに合っているか」
節約
- 目的: 無駄な支出の削減、貯蓄の増加、経済的な安定、将来への備え
- 選択基準: 「価格が妥当か」「本当に今買う必要があるか」「費用対効果はどうか」「予算の範囲内か」
このように、持たない暮らしは「物」や「心」を基準に心地よさを求め、節約は「お金」や「家計」を基準に無駄をなくすことを目指します。
どちらが良い・悪いというものではなく、大切にする視点が異なるのですね。
もちろん、持たない暮らしを実践した結果、無駄な買い物が減って節約につながることもありますし、節約を意識することで、本当に必要な物だけを選ぶ「持たない暮らし」の考え方に通じることもあります。
持たない暮らしで役立つ“物の選び方”の考え方

ここからは、持たない暮らしを実践する上で役立つ、物の選び方や管理方法のヒントを、より具体的にご紹介します。
量を減らすことだけに注目するのではなく、「役割」に着目することがポイントです。
量ではなく「役割」で持ち物を管理する方法
物を「何個持っているか」という量で管理するのではなく、「その物がどのような役割を果たしているか」で考えてみましょう。
例えば、キッチンツールを例にとります。
「おたま」「フライ返し」「菜箸」など、それぞれに「すくう」「返す」「つかむ」といった明確な「役割」がありますよね。
もし、一つの道具で二つ以上の役割(例えば「炒める」と「盛り付ける」ができるスプーン)をこなせるなら、道具の数を減らせるかもしれません。
また、「そもそも、その役割は本当に必要か?」と考える視点も大切です。
例えば、特定の料理を年に一度しか作らないのであれば、そのための専用の道具を持つ代わりに、家にある別の物で代用できないか、あるいはレンタルなどの他の方法がないかを考えてみる。
そうした工夫も「持たない暮らし」の一つです。
大切なのは、自分の暮らしの中で「必要な役割」が満たされているかどうか。
役割が重なっている物や、実は必要なかった役割の物を見直すことで、自然と持ち物の量は整えられていきます。
入れる前に見直すためのチェックポイント
新しい物を家に入れる前(購入したり、譲り受けたりする前)に、一度立ち止まって考える習慣をつけてみませんか。
感情やその場の雰囲気で決めてしまう前に、自分に問いかける時間を持つことが大切です。
チェックポイント1:すでに同じ役割の物がないか
家にある物で代わりがきかないか、よく確認してみましょう。
「似ているけれど、少し違うから」という理由で物を増やす前に、今ある物を最大限に活用する方法を考えます。クローゼットや引き出しの中身を思い浮かべてみてください。
チェックポイント2:保管場所は決まっているか
物を置くための具体的なスペースがイメージできるでしょうか。
「とりあえず」で空いている場所に置くと、散かかる原因になりがちです。その物の「住所」をきちんと決めてあげられるか、メジャーなどで測ってみるのも良い方法です。
チェックポイント3:お手入れは自分にできそうか
その物を大切に使い続けるために、必要なお手入れ(洗濯、修理、定期的な掃除、消耗品の交換など)を、自分が負担に感じずに行えるかも重要です。
お手入れが難しいと感じる物は、だんだんと使わなくなってしまう可能性があります。お手入れに必要な時間や道具、手間を具体的に想像してみましょう。
これらの点をクリアできる物だけを迎え入れるようにすると、家の中が物であふれるのを防ぎやすくなり、一つ一つの物を大切に使う意識も高まります。
暮らしの流れに合わせた保管ルールのつくり方
物の保管場所(収納)も、自分の「暮らしの流れ」や「動線(生活の中で人が移動する経路)」に合わせて決めると、格段に使いやすく、片付けやすくなります。
使う場所の近くに置く
例えば、毎日読む本はリビングのソファの近く、郵便物を確認するハサミやペンは玄関やリビングの決まった場所、といった具合です。
使う場所と保管場所が離れていると、つい出しっぱなしになってしまいがちです。
使う順番で並べる
朝の身支度で使う物を、使う順番に右から(あるいは左から)並べて置く、といった工夫です。毎日の一連の動作がスムーズになり、時間の短縮にもつながります。
よく使う物ほど、手前に、目線の高さや腰の高さなど、最も取り出しやすい「一等地」に置くのが基本です。
「一時置き」の場所を決める
すぐに片付けられない郵便物や、後で読みたい書類、明日持っていく物などのために、「一時的に置いておくカゴ」や「トレイ」などを一つだけ決めておくと効果的です。
大切なのは、この「一時置き」の場所を広げすぎないこと。「ここに入るだけ」とルールを決めることで、机の上や床が散らかりにくくなります。
無理のないルールを決めて、物の「住所」を明確にすることが、快適な空間づくりと「探さない」暮らしにつながります。
節約を続けやすくするための“買い方の仕組み”を整える

次に、無理なく節約を続けるための「買い方」について考えてみましょう。
大切なのは、日々の楽しみを我慢することではなく、購入の判断基準をあらかじめ決めておき、迷いや無駄を減らす「仕組み」づくりです。
購入前に判断できる簡単なルールづくり
買い物のたびに「買おうかな、やめようかな」と悩むのは、時間も心のエネルギーも使ってしまいますよね。
そこで、自分なりの簡単なルール(マイルール)を決めておくことをお勧めします。
ルール例1:迷ったら一日(あるいは数日)待ってみる
「今すぐ必要」でない物の場合は、その場で決めず、一度お店を離れて冷静に考える時間をおきます。
家に帰ってから、「本当にあの服は必要だったかな」「家にある物と合わせられるかな」と考えてみると、「やっぱり必要ないかも」と気づくことがあります。
ルール例2:買う理由と、「買わない理由」も考えてみる
「なぜそれが必要なのか」を具体的に言葉にしてみることで、本当に必要かどうかを判断しやすくなります。
同時に、「買わなかった場合、何か困ることがあるか?」や「買わないで済む他の方法はないか?」も考えてみると、より客観的に判断できます。
ルール例3:月に使ってよい上限額を決めておく
趣味や娯楽、洋服や雑貨など、生活必需品ではないけれど暮らしを楽しむために使いたい分野で、「今月はここまで」という予算枠を決めておくと、使い過ぎを防げます。
予算内で楽しむ工夫をすることも、一つの楽しみになるかもしれません。
自分にとって守りやすい、ごく簡単なルールで構いません。仕組み化することで、買い物の判断がずっと楽になります。
使い切りやすい量を選ぶためのポイント
特に食料品や日用品は、「お得だから」と大容量の物を買いがちですが、「使い切れる量」を買うことが、結果的に一番の節約につながります。
ポイント1:保管場所の広さを把握する
自宅の冷蔵庫、冷凍庫、パントリー(食品庫)や収納スペースに、無理なく収まる量だけを買うように意識します。
「収納場所に入る分だけ」と決めることで、ストックの持ちすぎを防げます。
ポイント2:家族構成や食べる頻度を考慮する
大家族でない場合や、外食が多いライフスタイルの場合、大容量パックが本当にお得かどうか、一度立ち止まって考えてみましょう。
ライフスタイルは変化するものです。子供が成長したり、食の好みが変わったりしたら、それに合わせて買う量も見直す柔軟さが必要です。
ポイント3:使い切るまでの期限を意識する
「安かったから」という理由だけで買うのではなく、「賞味期限・使用期限までに、我が家で本当に使い切れるか」を基準に選びます。
調味料や化粧品など、開封してから使い切るまでに時間がかかる物も注意が必要です。
お得なように見えても、使い切れずに捨ててしまっては、場所も取り、無駄な支出になってしまいますね。
買い過ぎを防ぐ行動パターンの見直し方
私たちは、知らず知らずのうちに「買い過ぎてしまう行動パターン」を持っていることがあります。
自分のクセを知り、少し意識を変えるだけで、買い物の仕方は変わっていきます。
見直し例1:空腹時の買い物
お腹が空いていると、脳がエネルギーを欲しているため、通常よりも判断力が鈍り、必要以上に食料品を買ってしまう傾向があると言われています。
買い物はできるだけ食後や、空腹でない時に済ませるようにしてみましょう。
難しい場合は、小さなアメやガムを口にしてからお店に入るだけでも、少し落ち着くかもしれません。
見直し例2:買い物リストなしでの買い物
買う物を決めずにお店に行くと、魅力的な陳列や「お買い得」の表示につい目が行き、予定していなかった物までカゴに入れてしまいがちです。
家を出る前に、冷蔵庫やストックを確認し、必要な物をメモ(スマートフォンでも手書きでも)に書き出しておくと、余計な買い物を減らせます。
見直し例3:お店を「なんとなく」見て回る習慣
特に目的がないのに、お店をぶらぶら見て回る習慣があると、それだけ衝動買いのきっかけ(誘惑)に触れる回数が増えてしまいます。
もちろん、ウィンドウショッピングが楽しみの一つである場合もありますが、節約を意識する時期は、必要な物がある時だけお店に立ち寄るようにするのも一つの方法です。
二つの考え方を暮らしに取り入れるステップ

「持たない暮らし」と「節約」は、どちらか一つを選ぶものではなく、両方の良いところをバランス良く暮らしに取り入れることができます。
ここでは、そのための具体的なステップを見ていきましょう。
持ち物の役割と購入基準をそろえる
まずは、「物」と「お金」の基準を自分の中でそろえていくステップです。
「持たない暮らし」の視点で「物の役割」を考え(ステップ1)、
「節約」の視点で「購入基準」を考えます(ステップ2)。
例えば、「掃除道具」という役割を持つ物を選ぶ際に、「デザインが気に入っていて、お手入れもしやすく、長く使える物」を選びたいとします(持たない暮らしの視点)。
同時に、「予算はこの範囲内で」とあらかじめ決めておきます(節約の視点)。
この二つの視点を持つことで、「価格は安いけれど、すぐに壊れてしまいそう」な物や、「デザインは素敵だけれど、予算を大幅に超えてしまう」物を避ける判断基準ができます。
「自分にとって大切で、かつ家計にも無理のない」選択をしやすくなります。
時には、初期費用が少し高くても、丈夫で長く使えたり、修理しながら使えたりする物を選ぶことが、長い目で見ると買い替えの回数が減り、結果的に節約につながるという考え方もありますよね。
生活パターンに合わせて調整する方法
人によって、生活のリズムや大切にしたいこと、優先順位は様々です。また、同じ人でも、時期によってそのバランスは変わっていきます。
例えば、仕事や子育てで忙しい時期は、多少費用がかかっても調理の手間を省ける食材キットや、掃除の手間を減らせる便利な道具を利用する、という選択もあるでしょう。
これは、一見「節約」の視点からは外れるかもしれませんが、「時間」や「心のゆとり」という大切な資源を生み出すための「持たない暮らし(=手間を持たない)」の工夫と捉えることができます。
逆に、時間にゆとりがある時期や、趣味として楽しみたい場合は、少し手間をかけて野菜を育ててみたり、手作りで何かを作ったりすることで、食費や娯楽費を抑えつつ(節約)、丁寧な暮らしを楽しむ(持たない暮らし)こともできます。
自分の現在の生活パターンや、何を一番大切にしたいかに合わせて、二つのバランスを柔軟に調整していくことが大切です。
見直しのタイミングを決めて習慣化する
暮らしは常に変化していきます。家族構成や働き方、興味の対象が変われば、必要な物やお金の使い方も変わってきます。
一度決めたルールや持ち物も、時間が経てば合わなくなってくるかもしれません。
そこで、「見直しのタイミング」をあらかじめ決めておくことをお勧めします。
タイミング例1:衣替えの季節(年に2回)
洋服を整理するついでに、「今シーズン着なかった服」があれば、その理由(好みが変わった、サイズが合わないなど)を考えてみます。
その気づきは、次の買い物に活かすことができます。同時に、他の持ち物も見直してみます。
タイミング例2:月末の家計簿を締める時(月に1回)
支出を振り返る際に、「この買い物は本当に必要だったかな?」と物の持ち方についても考えてみます。
特に、予算オーバーしてしまった項目があれば、なぜそうなったのかを振り返り、来月の買い方ルールに活かします。
タイミング例3:引っ越しや大掃除、新年の目標設定の時
生活環境が大きく変わる時は、持ち物全体を見直す良い機会です。
また、年の初めなどに「今年はこんな暮らしがしたい」と考えた時に、そのために必要な物・手放す物、お金の使い方を具体的に計画してみるのも良いでしょう。
カレンダーに「見直しデー」と書き込んでおくなど、忘れない工夫をするのも一つの方法です。
定期的に振り返ることで、その時の自分に合った暮らし方へと、少しずつ整えていくことができます。
まとめ
最後に、これまでの内容を振り返ってみましょう。
違いを知ると行動の目的が明確になる
「持たない暮らし」は、物との関わり方を見つめ直し、心のゆとりや快適な空間、自分らしい時間を大切にする考え方です。
一方、「節約」は、支出を管理し、経済的な安定や安心感、将来の計画を大切にする考え方です。
二つの違いを理解することで、自分が今「物を減らしてスッキリしたい」のか、「支出を減らして家計を安定させたい」のか、行動の目的がはっきりします。
目的が明確になれば、情報に振り回されず、自分に合った方法を選びやすくなりますね。
無理なく続けるために必要なこと
どちらの考え方を取り入れるにしても、最も大切なのは「無理なく続けること」。
完璧を目指しすぎたり、我慢をしすぎたりすると、続けるのが難しくなってしまいます。
また、他の誰かと比べて落ち込む必要もありません。人それぞれ、心地よいと感じる物の量や、お金の使い方のバランスは違います。
まずは、今日から一つだけ試せそうなことを見つけて、小さな一歩を踏み出してみませんか。
「クローゼットの一番下の引き出しだけ、役割を考えて整理してみる。」
「次のお買い物では、必ずリストを作ってみる。」
そんな小さな習慣の積み重ねが、きっとあなたの暮らしを、あなたらしく心地よいものへと導いてくれるはずです。


